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東京地方裁判所 平成8年(ワ)19369号 判決 1998年9月16日

原告

石津力

石津文代

右両名訴訟代理人弁護士

赤坂裕彦

流矢大士

佐藤康則

富永紳

被告

株式会社初穂

右代表者代表取締役

豊島幹男

右訴訟代理人弁護士

若梅明

新井哲男

来司勝

右若梅訴訟復代理人弁護士

岡本好司

被告

株式会社プロパティー

右代表者代表取締役

田中久雄

亀ヶ谷啓喜

右訴訟代理人弁護士

山崎克之

主文

一  被告らは、原告らに対し、各自金五二七六万三〇〇四円及びうち金四五六八万九五九二円に対する平成六年九月一九日から、うち金七〇七万三四一二円及びこれに対する平成八年一〇月一八日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

三  この判決は、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  被告株式会社初穂(以下「被告初穂」という。)は、不動産の売買及び仲介等を目的とする会社であり、被告株式会社プロパティー(以下、「被告プロパティー」という。)は、不動産の売買、貸貸、その仲介及び管理、並びに不動産に関するコンサルティング等を目的とする会社である。

2  本件建物の売買に至る事実経過及びその後の事情等

(一) 原告らは、平成六年六月一八日ころ、被告プロパティーのチラシ広告(甲一)を見て、別紙第一物件目録一記載の建物(代々木チェリーマンションと呼ばれる一棟の建物の二〇二号室である。以下「本件建物」という。)が販売されていることを知った。右チラシ広告には、「日照、眺望良好」との説明があり、もって、被告らは、本件建物について、現在及び将来にわたって、日照が確保されているとの説明をした。

原告らは、右チラシ広告を見て、本件建物の日照は、将来にわたって確保されるものと誤信した。

原告らは、右同日ころ、右チラシ広告を見て、本件建物に赴いたところ、被告プロパティーの従業員である田中實及び長谷川親悟は、本件建物の室内において、本件建物について、その売主が被告初穂であることの説明をしたほか、日照や眺望が良好であるとの説明をした。

(二) 原告石津力(以下「原告力」という。)は、同年六月二一日ころ、本件建物に赴いたところ、田中及び長谷川は、本件建物の室内において、原告力に対し、本件建物を購入するよう勧誘した。

当時、大伸フード株式会社(以下「大伸フード」という。)が、代々木チェリーマンションの南西側に隣接する別紙第二物件目録五から八まで記載の各土地(以下「本件隣接地」という。)を買い取り、本件隣接地上に建物を建築しようとしており、田中及び長谷川は、右勧誘の際、宅地建物取引業者として行った調査により、右事実を知っていた。一方、原告力は、田中及び長谷川に対して、右勧誘の際、年老いた母親と同居する予定があること及びそのためには建物の日照が確保されることが売買の条件であることを伝えた。

それにもかかわらず、田中及び長谷川は、原告力に対し、右勧誘の際、本件隣接地上には、代々木チェリーマンションの区分所有者の承諾なくしては建物は建てられないので、本件建物に対する南西側からの日照は、将来にわたって確保されるとの説明をした。

原告らは、右説明を信用し、その旨誤信した。

(三) 渋谷区建築部建築課は、被告初穂を含む代々木チェリーマンションの区分所有者に対して、平成六年六月二九日付の通知書(甲一七の二。以下「本件通知書」という。)を、右同日ころ送付し、被告ら並びに田中、長谷川及び被告初穂の従業員である松田厚は、そのころ、大伸フードが本件隣接地上に建物を建築する計画を実行に移し始めたことを知った。

しかし、被告ら並びに松田、田中及び長谷川は、原告らに対し、本件通知書を見せなかったほか、右事実についても説明をしなかった。

(四) 原告らは、平成六年七月一日、本件建物の売買契約を締結するため、被告プロパティーに赴いた。

当時、松田は、右(三)のとおり、渋谷区建築部建築課から本件通知書の送付を受けて、大伸フードが本件隣接地上に建物を建築する計画を実行に移し始めたことを知っていた。

それにもかかわらず、松田は、原告らに対し、右同日、本件隣接地上には、代々木チェリーマンションの区分所有者の承諾なくしては建物は建てられないので、本件建物に対する南西側からの日照は、将来にわたって確保されるとの説明をした。その際、同席していた田中及び長谷川も、松田の右説明に対してうなづいており、もって松田の右説明を肯定していた。

原告らは、田中及び長谷川の前記(一)から(三)までの説明及び松田の右(三)の説明に基づき、その説明のとおりであると誤信して、被告プロパティーの仲介により、被告初穂との間で、右同日、原告らが、被告初穂から、本件建物及び別紙第一物件目録二記載の土地(以下「本件敷地」といい、本件建物と本件敷地を合わせて「本件建物等」という。)を、代金四五〇〇万円で買い受ける売買契約を締結し、同日、被告初穂に対し、手付金一〇〇万円を支払った。

右のとおり、右売買契約においては、本件隣接地に建物が建築され、本件建物に対する南西側からの日照が遮られないことが、契約の要素になっていたものである。

(五) その後、渋谷区建築主事は、平成六年七月一一日、本件隣接地上に建物を建築するために提出された建築確認申請書を第二七二号をもって受理し、同年八月二四日、右申請に対し建築確認をした。右建築確認申請は、敷地面積56.42平方メートル、建築面積32.40平方メートル、延べ面積92.34平方メートル、木造地上三階建専用住宅、建築主大崎國夫とするものであった。被告ら並びに松田、田中及び長谷川は、右事実を知っていたにもかかわらず、原告らに対して、右事実について、一切説明をしなかった。

(六) 松田、田中及び長谷川は、右(五)のとおり、渋谷区建築主事による本件隣接地に関する建築確認申請書を受理し建築確認をしたことを知っていた。

それにもかかわらず、松田は、平成六年九月一九日、原告らが松田らに対して本件隣接地上に建物が建築されないことに間違いがないかどうかについて確認した際、間違いない旨断言し、本件建物の南西側に建物が建築されることはない、本件隣接地上に建物を建築することはできず、将来本件建物に対する日照が遮断されることはないとの説明をした。また、同席していた田中や長谷川、あるいは被告初穂の従業員である館山らも異議を述べなかった。

その結果、原告らは、本件隣接地上に建物が建築されないことが間違いない事実であると誤信し、平成六年九月一九日、被告初穂に対して、原告らと被告初穂との間では同月一六日に本件建物の売買代金を四五〇〇万円から四三〇〇万円に減額する旨の合意が成立していたことから、右減額後の売買残代金である四二〇〇万円を支払ったことをはじめ、被告らに対し、合計で四四六八万九五九二円の金銭を支払い、本件建物についての所有権移転登記も完了し、同年九月二三日に入居した。

(七) しかし、平成六年一〇月ころから、原告らの認識に反し、本件隣接地上に四棟の建物を建築する工事が開始され、平成七年四月ころまでには、別紙第二物件目録一から四まで記載の四棟の建物(以下「本件隣接建物」という。)が建築された。

その結果、本件建物に対する南西側からの日照は、右建物によって遮られ、一日のうち約二〇分から三〇分程度あるに過ぎない状態となった。このため、本件建物の居室内の湿気により、床及び壁にかびが多数繁殖している状況にある。

(八) 原告らは、被告初穂との右売買契約当時、本件隣接地上に将来建物が建築され、本件建物の南西側からの日照が阻害されることがあることを知っていたとすれば、右売買契約を締結していなかったものであり、右売買契約は、法律行為の要素に錯誤があるから、無効である。

3  被告ら及びその従業員の不法行為

(一)(1) 前記2(一)のとおり、原告らが平成六年六月一八日ころに見た被告プロパティーのチラシ広告には、本件建物について、「日照、眺望良好」との説明があり、もって、被告らは、本件建物について、現在及び将来にわたって、日照が確保されているとの虚偽の説明をした。

(2) 前記2(二)のとおり、被告ら並びに田中及び長谷川は、宅地建物取引業者として行った調査により、大伸フードが本件隣接地を買い取り、本件隣接地上に建物を建築しようとしていることを知っていたにもかかわらず、被告らは、又は被告プロパティーの業務の執行について田中及び長谷川らは、原告力に対して、平成六年六月二一日、本件隣接地上には、代々木チェリーマンションの区分所有者の承諾なくしては建物を建築することはできず、将来本件建物に対する日照が遮断されることはないとの虚偽の説明をした。

(3) 前記2(四)のとおり、被告ら並びに松田、田中及び長谷川は、渋谷区建築部建築課が代々木チェリーマンションの各区分所有者に対して送付した本件通知書により、本件隣接地上への建物の建築が計画されていることを知っていたにもかかわらず、被告らは、又は被告初穂及び被告プロパティーの各業務の執行について松田、田中及び長谷川は、原告らに対して、平成六年七月一日、本件隣接地上には、代々木チェリーマンションの区分所有者の承諾なくしては建物を建築することはできず、将来本件建物に対する日照が遮断されることはないとの虚偽の説明をした。

(4) さらに、前記2(六)のとおり、被告ら並びに松田、田中及び長谷川は、本件隣接地に関して渋谷区建築主事が建築確認申請書を受理し建築確認をしたことを知りながら、被告らは、又は被告初穂及び被告プロパティーの各業務の執行について松田、田中及び長谷川は、本件隣接地上には建物が建築されない旨断言した。

(二) 一方、前記(三)及び(五)のとおり、被告ら並びに田中、長谷川及び松田は、渋谷区建築部建築課が代々木チェリーマンションの区分所有権者に対して本件通知書を送付していた事実及び渋谷区建築主事が本件隣接地に関して建築確認申請書を受理し建築確認をした事実を知りながら、原告らに対して説明をしなかった。これらの事実は、原告らが売買契約締結の意思表示をするかどうかを決定するに当たって重要な事実であった。

(三) 被告らは、売買契約の当事者として、原告らが損害を被らないようにするための信義則上の説明義務を負うものである。特に、被告らは、宅地建物取引業者であり、原告らに対して、原告らが取得しようとしている宅地建物について権利や利益が制限されることになる事項その他原告らの利害に関わる重要事項については、書面や図面を交付してその理解をすることができるようにした上で契約を締結しなければならず(宅地建物取引業法三五条)、重要事項については故意に事実を告げず、又は不実のことを告げてはならないとされ(同法四七条)、違反者に対しては、刑罰が課せられる(同法八〇条)。

本件においては、将来にわたって、本件隣接地上に本件建物に対する日照を遮るような建物が建築されないことが売買契約の要素になっていたものであり、そのような建物が建築されるどうかは、原告らにとって重要な事項であった。したがって、被告らは、本件隣接地上に建物が建築され、本件建物に対する南西側からの日照が遮断される蓋然性がある場合には、原告らが損害を被ることのないように、その状況、蓋然性の程度等を具体的に説明すべき信義則上の義務があった。にもかかわらず、被告らは、このような説明をすべき義務を怠り、原告らに対して、右のとおり虚偽の説明をし、かつ、重要な事項を説明しなかった。原告らは、被告らの右説明義務違反行為により、錯誤に陥り、その結果、前記2(四)のとおり、被告初穂との間で、本件建物及び本件敷地の売買契約を締結して手付金一〇〇万円を支払い、さらに、前記2(六)のとおり、被告らに対し、合計四四六八万九五九二円を支払ったものである。

4  損害

原告らが、被告らの説明義務違反によって本件売買契約を締結し、その結果被った損害は次のとおりである。

(一) 被告初穂に対して平成六年九月一九日に支払った売買代金

四三〇〇万円

(二) 三和銀行渋谷東口支店に対して右同日支払った諸費用

六三万七七三六円

(三) 被告らに対して右同日支払った登記手続費用

六六万九八〇〇円

(四) 被告プロパティーに対して右同日支払った仲介手数料

一三七万七五八三円

(五) 被告らに対して右同日支払った管理費等精算金

四四七三円

(六) 三和銀行渋谷東口支店から左記約定で借り入れた金三四〇〇万円に対する利息として同支店に対して平成六年一〇月三日から平成八年一〇月二日までの間に支払った金銭

合計二二七万三四一二円

借入金額 三四〇〇万円

借入日 平成六年九月一九日

利息 変動金利制(当初年2.6250パーセント)

支払条件 毎月二日限り元利逓増払い、ボーナス併用あり

遅延損書金

その他の特約

(七) 弁護士費用 四八〇万円

5  よって、原告らは、被告らに対し、被告らの説明義務違反を理由とする不法行為に基づく損害賠償として、又は、被告らの各従業員の説明義務違反を理由とする使用者責任に基づく損害賠償として、五二七六万三〇〇四円及びうち四五六八万九五九二円(右4(一)から(五)までの合計額)に対する損害発生日である平成六年九月一九日から、うち七〇七万三四一二円(右4(六)及び(七)の合計額)に対する損害発生日の後であり、訴状送達日の翌日である平成八年一〇月一八日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  原告初穂の認否

(一) 請求原因1は認める。

(二) 請求原因2について

(1) 同(一)については、被告初穂は、本件建物について将来にわたって日照が確保されている旨の虚偽の説明をしたことはない。本件建物について、その当時において、日照が確保されていたことは事実であったから、問題はない。その余は知らない。

(2) 同(二)については、被告らが、平成六年六月二一日当時、宅地建物取引業者として行った調査により、大伸フードが本件隣接地を買い取り、本件隣接地上に建物を建築しようとしていることを知っていたことは認めるが、その余は知らない。

(3) 同(三)については、被告ら及び松田が、渋谷区建築部建築課が代々木チェリーマンションの各区分所有者に対して送付した本件通知書により、本件隣接地上への建物の建築が計画されていることは知っていたことは認めるが、その余は否認し、又は争う。松田は、原告らに対して、右事実を十分説明している。

(4) 同(四)については、松田が、本件隣接地上への建物の建築が計画されていることを知っていたこと、原告らが、被告プロパティーの仲介により、被告初穂との間で、平成六年七月一日、本件建物等を代金四五〇〇万円で買い受ける売買契約を締結し、被告初穂に対し、同日、手付金一〇〇万円を支払ったことは認めるが、その余は否認する。特に、被告初穂が、原告らに対し、平成六年七月一日、代々木チェリーマンションの区分所有者の承諾なくしては本件隣接地上に建物は建てられないので、本件建物に対する南西側からの日照は将来にわたって確保されるなどと説明したことは全くない。原告らは、本件売買契約締結前に、本件隣接地上に建物が建築される計画があることを承知していた。

(5) 同(五)については、渋谷区建築主事が、平成六年七月一一日、本件隣接地上に建物を建築するために提出された建築確認申請書を第二七二号をもって受理し、同年八月二四日、右申請に対する建築確認をしたことは認めるが、その余は否認する。原告らは、被告らから告知され、自らも情報を入手し、これらの事実については知っていた。

(6) 同(六)については、被告初穂が、原告らとの間で、平成六年九月一六日に売買代金四五〇〇万円を金四三〇〇万円に減額する旨合意したこと、原告らが、被告初穂に対し、同年九月一九日、右減額後の残代金四二〇〇万円を支払ったことをはじめ、被告らに対し、合計で四四六八万九五九二円を支払ったこと、本件建物についての所有権移転登記が完了したこと、原告が同月二三日に本件建物に入居したことは認めるが、その余は否認する。被告初穂又は松田が、原告らに対し、平成六年九月一九日、本件建物の南西側には建物が建築されないとの説明をしたことは全くない。建築確認を説明しなかったこともない。また、右同日ころには、本件隣接地には既にブルドーザーが搬入され、整地工事が始まっていたのであり、原告らは、本件隣接地に建物が建築されることを十分認識しながら、本件売買契約を締結し、代金を支払った。

(7) 同(七)については、本件隣接建物が建築されたことは認めるが、その余の事実は否認する。

(8) 同(八)は争う。原告らは、本件隣接地上に建物が建築されることを承知の上で、本件建物等を買い受けた。

(三) 請求原因3について

(1) 同(一)(1)については、前記(二)(1)のとおりであり、被告初穂は、本件建物について将来にわたって日照が確保されている旨の虚偽の説明をしたことはなく、広告の文言にも問題はない。また、被告初穂又はその従業員が、原告らに対して、虚偽の説明をしたことはない。

同(一)(4)については、前記(二)(6)のとおりであり、被告初穂又は松田が、原告らに対し、平成六年九月一九日、本件建物の南西側には建物が建築されないとの説明をしたことはないし、原告らは、本件隣接地に建物が建築されることを承知の上で、本件建物等を買い受けた。

(2) 同(二)については、否認する。被告初穂が、建築確認についての説明をしなかったことはなく、原告らは、被告らから告知され、自らも情報を入手し、これらの事実は知っていた。

(3) 同(三)については、被告初穂が宅地建物取引業者であること及び原告主張の法令の規定があることは認めるが、その余は否認し、又は争う。

(四) 請求原因4については、原告らが被告らの説明義務違反によって本件売買契約を締結したこと及び損害を被ったことはいずれも争う。原告らは何ら損害を被っていない。

2  被告プロパティーの認否

(一) 請求原因1は認める。

(二) 請求原因2について

(1) 同(一)については、被告プロパティーが、原告の主張する内容のチラシ広告をしたこと、原告と被告プロパティーの従業員である田中實及び長谷川が本件建物で会ったこと(ただし、日時は平成六年六月一九日である。)は認め、その余は否認する。

(2) 同(二)については、田中らが原告と平成六年六月二一日ころに会ったことは認めるが、その余は否認する。当日、原告から、本件建物の売買代金を四五〇〇万円とする値引き交渉の依頼を受けたが、田中らが原告に対し、本件隣接地上には、代々木チェリーマンションの区分所有者の承諾なくしては建物は建てられない、あるいは、本件建物の南西側からの日照は将来にわたって確保されるといった説明をした事実はない。

(3) 同(三)については、渋谷区建築部建築課が本件通知書を作成したことは認めるが、その余は否認する。原告らは、被告初穂から、右同日ころに本件通知書を見せられている。また、田中は、右通知書の送付を受けて、渋谷区建築部建築課の担当官であった堤に電話をかけて話をしており、その時の内容についても、原告らに対し、説明をするとともに、本件通知書に記載されていた同年七月五日に開催予定の渋谷区の説明会に出席するよう勧めた。さらに、被告初穂の担当者は、原告らに代わって、右同日開催された渋谷区の説明会に出席したが、その際、渋谷区から、本件隣接地上に建物を建築するためにされた建築確認の申請について、行政上の手続としては、建築確認をせざるを得ないことなどの説明があり、このような渋谷区からの説明について、原告らはその直後に説明を受けている。

(4) 同(四)については、原告が主張する時期に、原告が主張する内容の売買契約を締結し、手付金一〇〇万円が授受されたことは認めるが、その余は否認する。原告らは、右(3)のとおり、本件売買契約の締結前に、被告初穂から、本件通知書を示されるなどして、本件隣接地上に建物を建築する計画があることを知っていた。また、本件売買契約書(甲三)の特約条項においても、本件隣接地は代々木チェリーマンションの敷地に入っていないが、出入口の通行権を確保していることが明記されており、本件隣接地について区分所有者にそれ以上の権利がないことが告知されている。

(5) 同(五)については、原告が主張する時期に、建築確認申請書が受理され、建築確認がされたことは認めるが、その余は否認する。

(6) 同(六)については、原告が主張する時期に、本件建物の売買代金が減額され、売買残代金が支払われ、原告が本件建物に入居したことは認めるが、その余は否認する。

(7) 同(七)については、本件隣接建物が建築されたことは認めるが、その余は否認する。

(8) 同(八)は争う。原告らは、本件隣接地上に建物が建築されることを知っていたが、代々木チェリーマンションの足廻りがよいこと、自己の勤務先に近いこと、価格が低いことを重視して、本件建物等を買い受けたのである。したがって、原告に錯誤があるとの主張は失当である。

(三) 請求原因3について

(1) 同(一)(1)については、前記(二)(1)のとおり、被告プロパティーが、原告の主張する内容のチラシ広告をしたことは認めるが、その余は否認し、又は争う。

同(一)(2)及び(3)については、前記(二)(2)及び(3)のとおり、渋谷区建築部建築課が本件通知書を作成したこと、本件隣接地上に建物の建築が計画されたことは認めるが、その余は否認し、又は争う。被告プロパティー又は田中若しくは長谷川が、原告らに対し、虚偽の説明をしたことはない。

同(一)(4)については、前記(二)(5)のとおり、原告が主張する時期に、建築確認申請書が受理され建築確認がされたことは認めるが、その余は否認する。

(2) 同(二)は否認し、又は争う。前記(二)(3)のとおり、原告らは、被告初穂から、本件通知書を示されるなどして、本件隣接地に建物が建築されることを承知の上で本件建物を買い受けたのであって、被告プロパティー又は田中若しくは長谷川が、原告に対し、虚偽の説明をしたことはない。

(3) 同(三)については、被告プロパティーが宅地建物取引業者であること及び原告が主張する法令の規定があることは認めるが、その余は否認し、又は争う。被告プロパティー又は田中若しくは長谷川には、説明義務違反はない。

(四) 請求原因4については、原告らが(一)から(五)までの金銭を支払ったことは認めるが、(六)については不知。原告らが損害を被ったことは争う。

理由

一  まず、請求原因1については、当事者間に争いがない。

二  そこで、請求原因2について判断する。

1  証拠等によれば、本件建物等の売買に至る経過等に関し、次の事実が認められ、これを左右するに足りる証拠はない。

(一)  被告初穂は、平成六年三月三〇日、有限会社祥光から本件建物を、白井眞里子から本件敷地を、代金合計三二六七万円でそれぞれ買い受け、同年五月二日、同年四月二八日付売買を原因として、それぞれ所有権移転登記がされた(甲五一、甲五二、甲六八)。

(二)  被告プロパティーは、被告初穂から、平成六年六月一〇日ころ、本件建物の売却の仲介の依頼を受け、本件建物の売買代金が四七五〇万円であることなどのほか、「日照、眺望良好」と記載した、本件建物の広告チラシ(甲一)を作成し、同月一八日ころに配布した(争いのない事実、甲一、証人田中)。

(三)  原告らは、平成六年六月一八日ころ、右広告チラシを見て本件建物に興味を持ち、右同日又は同月一九日、本件建物を訪れたところ、被告プロパティーの従業員である田中及び長谷川が応対した(争いのない事実、証人田中、原告文代原告力本人)。

(四)  田中は、平成六年六月二一日、原告力の勤務先を訪れて原告力と面会し、その際、原告力は、売買価格四五〇〇万円とするなどの条件で本件建物を購入することとしたので、被告プロパティーに対し、媒介を依頼する旨が記載された、「購入申込書」と題する被告プロパティー宛ての書面(甲二)を作成し、田中に交付した(甲二、証人田中、原告力本人)。

(五)  原告力は、平成六年六月三〇日ころ、本件建物を再度訪れたところ、田中が応対した。

(六)  原告らは、被告初穂から、平成六年七月一日、被告プロパティーの仲介により、本件建物及び本件敷地を代金四五〇〇万円(ただし、消費税を含む。)で買い受け、被告初穂に対し、手付金として、一〇〇万円を支払った(甲三、甲七)。

(七)  原告力は、本件建物等の売買残代金を支払うために、銀行から三六〇〇万円を借り入れる手続を行ったところ、最終的に、三和銀行渋谷東口支店から、三四〇〇万円を借り入れることができるにとどまった。そこで、原告らと被告初穂は、平成六年九月一六日、本件建物の売買契約の代金を四三〇〇万円(ただし、消費税を含む。)と変更するとの合意をした(甲一〇、甲一一、証人田中、原告力本人、原告文代本人)。

(八)  原告らは、平成六年九月一九日、被告初穂に対し、売買残代金として、四二〇〇万円を支払い、三和銀行渋谷東口支店に対し、諸費用として、六三万七七三六円を支払い、被告らに対し、登記手続費用として、六六万九八〇〇円を、管理費等精算金として四四七三円をそれぞれ支払い、被告プロパティーに対し、本件建物の売買契約の仲介手数料として、一三七万七五八三円を支払った(甲一二から一五まで、弁論の全趣旨)。

(九)  原告らは、三和銀行渋谷東口支店に対し、平成六年一〇月から平成八年一〇月までの間、毎月二日から四日までのころに、借入金の利息として、合計で二二七万三四一二円を支払った(甲二〇、甲二一、弁論の全趣旨)。

2  次に、証拠等によれば、本件隣接地における本件隣接建物の建築に至る経過等に関して、次の事実が認められ、これを左右するに足りる証拠はない。

(一)(1)  本件建物が存在する代々木チェリーマンションは、渋谷区代々木一丁目四〇番一一から二二までの各土地を敷地として、昭和五二年に建築されたものであるところ、昭和五一年に右建築についてされた建築確認においては、右各土地の南西側に接していた同番六の土地もその敷地とされていた(甲三、甲一七の二、甲二四の一、甲二七の一、甲三〇の一、甲三三の一、甲五一、甲七二、弁論の全趣旨)。

(2) 右同番六の土地については、平成六年五月二三日に、同月一九日売買を原因として、高木悦子から大伸フードに対して所有権移転登記がされ、同年七月八日に、錯誤を原因として、大伸フードと株式会社山崎企画の共有である旨の所有権更正登記がされた後、同年八月一日に、同番六の土地と同番二九の土地に分筆された。右分筆後の同番六の土地については、同月三〇日に、同月二九日共有物分割を原因として、大伸フードから株式会社山崎企画に対して、大伸フードの共有持分全部移転登記がされる一方で、同番二九の土地については、同月三〇日に、同月二九日共有物分割を原因として、株式会社山崎企画から大伸フードに対して、株式会社山崎企画大伸フードの共有持分全部移転登記がされたところ、右分筆後の同番六の土地は、同年九月八日、同番六の土地と同番三〇から三三までの土地に分筆された。このようにして分筆された同番三〇から三三までの土地が本件隣接地である。(甲五三から五九まで)

(二)  渋谷区建築部建築課は、代々木チェリーマンションの敷地を分割して、建築計画をしたいとの事前相談があり、この計画が実現されると、代々木チェリーマンション及びその敷地が、敷地の二重使用となって、建築基準法に抵触するおそれがあるので、今後の対応についての区分所有者の意見を平成六年七月五日に聴取したいとの記載のある、本件通知書を作成し、そのころ、代々木チェリーマンションの各区分所有者に対して、これを送付した。本件通知書は、平成六年六月三〇日ころまでには、当時本件建物の区分所有者であった被告初穂に対しても送付され、被告初穂は、被告プロパティーに対しても、本件通知書を送付した。(甲一七の二、証人田中)

(三)  渋谷区建築部建築課は、平成六年七月五日、予定どおり右説明会を開催し、一〇名の代々木チェリーマンションの区分所有者又はその従業員が出席した。なお、本件建物については、被告初穂から松田が出席した。

右説明会においては、渋谷区側は、右建築計画が実現されると、敷地の二重使用となり、代々木チェリーマンションは違法建築物ということになるが、行政上の手続としては、建築確認をせざるを得ないことなどの説明をした。(甲一七の三、証人田中、弁論の全趣旨。なお、甲二四の一は右認定を左右するに足りるものではない。)

(四)  大崎國夫は、渋谷区建築主事に対し、平成六年七月一一日、前記(一)のとおり本件隣接地が分筆される前の渋谷区代々木一丁目四〇番六の土地(以下「分筆前の四〇番六の土地」というが、前記(一)のとおり、同番二九の土地の分筆した後の土地を指すこともあれば、右土地を分筆する前の土地を指すこともあるものとする。)の一部を敷地として、その上に建物を建築するため、建築確認申請書を提出した。右申請書は、敷地面積を56.42平方メートル、建築面積を32.40平方メートル、建物全体の延べ面積を92.4平方メートルとする木造三階建専用住宅の建築を目的とするものであり、渋谷区建築主事は、右同日、第二七二号をもって右申請書を受理した。

また、大崎は、渋谷区建築主事に対し、同月二八日及び同年八月二日、分筆前の四〇番六の土地の一部をそれぞれ敷地として、その上に建物を建築するため、合計で三通の建築確認申請書を提出し、渋谷区建築主事は、右各同日、第三二四号、第三三五号及び第三三六号をもって右各申請書を受理した。(争いのない事実、甲二四、甲二七、甲三〇、甲三三)

(五)  その後、渋谷区建築主事は、右第二七二号をもって受理した建築確認申請に対しては平成六年八月二四日、右第三三六号をもって受理した建築確認申請に対しては同年九月六日、右第三二四号及び第三三五号をもって受理した各建築確認申請に対しては同月七日、それぞれ建築確認をした。(争いのない事実、甲二四、甲二七、甲三〇、甲三三)

(六)  分筆前の四〇番六の土地又は本件隣接地上では、平成六年九月ころまでは、地均し工事が行われていたが、同年一〇月になって、建物の基礎工事が始められ、本格的な建築工事が始められた(証人田中、原告力本人、原告文代本人)。

(七)  本件隣接建物は、平成七年二月から四月にかけて、本件隣接地上に順次完成した。その結果、本件建物の日照時間は、一日二〇分から三〇分程度となった。(争いのない事実、甲六〇から六三まで、原告力本人、原告文代本人)

3  そこで、以上の事実を前提に、原告が主張する被告ら又はその従業員による説明義務違反の有無について検討する。

(一)  まず、原告らは、前記1(二)の被告プロパティーが作成、配布したチラシ広告において、「日照、眺望良好」との記載があることをもって、被告らが、本件建物について、現在及び将来にわたって、日照が確保されているとの説明をしたと主張するとともに、原告らは、右チラシ広告を見て、本件建物の日照は、将来にわたって確保されるものと誤信したと主張する。

しかしながら、まず、右チラシ広告を作成、配布したのは、右のとおり被告プロパティーであって、右チラシ広告の記載について、被告初穂が顧客に対して、何らかの法的責任を負うと解すべき根拠はない。証人田中によれば、右チラシ広告の原案は被告初穂から被告プロパティーに対して交付され、その中にも同旨の文言が記載されていたことがうかがわれるが、仮にこの点が事実であったとしても、なお右判断を左右するに足りるものではない。

また、右チラシ広告における「日照、眺望良好」との記載は、右チラシ広告が作成、配布された平成六年六月当時の本件物件の現状を説明したものであると解する余地も十分にあるというべきであるから、右記載をもって、原告らが主張するように、被告プロパティーが、顧客に対し、本件建物について、現在及び将来にわたって、日照が確保されているとの説明をしたものと認めることはできないし、原告らにおいて、そのように誤信したものと認めるに足りる証拠もない。

(二)  次に、原告らは、原告力が、同年六月二一日ころ、本件建物に赴いたところ、田中及び長谷川は、本件建物の室内において、原告力に対し、当時、大伸フードが本件隣接地を買い取り、本件隣接地上に建物を建築しようとしていたことを知り、かつ、原告力が、田中らに対し、建物の日照が確保されることが売買の条件であると述べたにもかかわらず、本件隣接地上には、代々木チェリーマンションの区分所有者の承諾なくしては建物は建られないので、本件建物に対する南西側からの日照は、将来にわたって確保されるとの説明をしたと主張し、原告力本人は、その時期について、平成六年六月下旬であると陳述するほかは、右主張に沿う陳述をする。しかし、前記1のとおり、原告力が本件建物に赴いたのは、平成六年六月一八日又は一九日と同月三〇日ころの二回だけであり、同月二一日には原告力が本件建物に赴いたことは認められないから、原告らの右主張はその前提を欠くものというほかはないところ、なお、右主張は、その主張に係る日時が平成六年六月三〇日ころであり、前記1(五)のとおり原告力が本件建物に赴いた際の説明であるという趣旨であると善解した上で検討する。

(1) この点、まず、証人田中によれば、前記1(五)のとおり、原告力が平成六年六月三〇日に本件建物に赴いて、田中が応対した時までには、前記2(二)のとおり、被告プロパティーは、被告初穂から、本件通知書の送付を受けていたこと、田中は、本件通知書の内容のほか、それ以前に行っていた調査結果を総合して、大伸フードが分筆前の四〇番六の土地上に建物を建築する計画があることを知ったこと、仮にそのような建物が建築されれば、代々木チェリーマンションとの関係では敷地の二重使用という問題が生じることを知ったことが認められる。

(2) また、証人田中及び原告力本人によれば、前記1(五)のとおり、田中が原告力と応対した際、田中は、原告力に対し、代々木チェリーマンションの敷地及び分筆前の四〇番の六の土地等が記載された公図を示したほか、大伸フードが分筆前の四〇番六の土地上に建物を建築する計画を有していることを説明したことが認められ、右事実及び右(1)の事実を総合すれば、その際、田中が、原告力に対し、分筆前の四〇番六の土地上に建物が建築されれば、敷地の二重使用という問題が生じることも説明したことが推認される。

(3) 一方、その作成経緯や作成目的については争いがあるものの、田中が、平成六年六月三〇日当時において渋谷区の担当官であった堤と電話でした話の内容をまとめたものとして、平成六年一一月一四日ころに作成したことについては争いのない甲一六(報告書)によれば、田中は、平成六年六月三〇日の時点において、その理由は明らかではないものの、代々木チェリーマンションの区分所有者全員の承諾がなければ、分筆前の四〇番の六の土地上に新たに建物を建築することはできないと考えていたことが認められる。

この点、被告プロパティーは、右のように、代々木チェリーマンションの区分所有者全員の承諾がなければ分筆前の四〇番の六の土地上に新たに建物を建築することはできないということは、田中が平成六年六月三〇日に連絡を取った、渋谷区の担当官であった堤が発言したことであり、田中は、法律的に見て、その説明に納得することができず、発言の真意を図りかねたと主張し、丙五(田中の陳述書)にもこれに沿う記載がある。しかしながら、甲一六には、本件通知書やこれに記載されている説明会の趣旨についての問答に引き続き、田中の問いとして、「そうすると各区分所有者は当然反対するのではないでしょうか?又、各区分所有者の全員の承諾を得なければ建築はできないでしょうか?」との記載があるのであって、被告らの右主張のような趣旨で理解することは到底できず、むしろ、右記載は、田中の当時の認識を記載したものと認めるほかはない。また、証人田中は、代々木チェリーマンションの各区分所有権者に対する説明会を経なければ建物を建築することはできないのではないかという趣旨の質問を記載する趣旨で、右のような記載をしたと陳述するが、これも、甲一六の右記載に照らして信用することはできない。

一方、甲一六においては、田中の右問いに対して、堤が、「各区分所有者の賛成がなければ建築はできません。」と答えた旨の記載があるが、右前記2(二)で認定した本件通知書の文面及び前記2(三)で認定した説明会における渋谷区側からの説明によれば、堤が右のような回答をしたとは考えられないから、右堤の回答部分についての記載は信用することができず、その結果、田中が平成六年六月三〇日に堤に電話をしたこと自体、疑わしいといわなければならない。

いずれにせよ、前記認定の事実は、動かし難い事実であるというべきであって、田中が不動産売買等を目的とする被告プロパティーの従業員であったことは、前記認定を何ら左右するものではない。また、本件建物等の売買契約書(甲三)には、特約条項として、本件建物は建築確認時において分筆前の四〇番の六の土地を含めて許可申請を受けたものであって、将来右土地を除く再建築等の場合には、同等規模の建物を建築することができないことがあることを買主は容認する旨の記載があり、証人田中の陳述によれば、これは田中が内容を決めて被告プロパティーにおいて記載したものであることが認められるが、右特約条項は、そもそも論理的に見ても前記認定の事実と矛盾するものとまではいえず、前記認定を左右することはできない。

(4) 右(3)で認定した事実に、甲一六の記載内容を併せて考慮すると、平成六年六月三〇日当時、田中と原告力との間で、代々木チェリーマンションの区分所有権者の承諾がなくても分筆前の四〇番の六の土地上に建物を建築することができるかどうかということが話題になっていたことは明らかであるというべきであり、右判断に前記(1)から(3)までの事実及び原告力本人の陳述を総合すれば、前記1(五)のとおり、原告力が本件建物に赴いた際に、田中は、原告力に対し、代々木チェリーマンションの区分所有権者の承諾がなければ、分筆前の四〇番六の土地上に建物を建築することはできないという趣旨の説明をするとともに、その結果本件建物の日照は確保されるという趣旨の説明をしたことが認められる。もっとも、原告力本人は、平成六年六月当時、分筆前の四〇番の六の土地は、現況では駐車場や花壇となっており、代々木チェリーマンションの敷地であると思った旨陳述しており、仮にそれが事実であるとすれば、既に敷地になっているはずの土地上に建物が建築されるかどうかが話題となるということ自体、いささか不自然な印象もあるが、原告力本人は、田中と長谷川から、大伸フードが分筆前の四〇番の六の土地上に建物を建築しようとしているという話を聞き、光が入ってこないと困るという趣旨の話をすると、田中が右のような説明をしたとも陳述していることを考慮すると、右認定を左右するとまではいえない。また、右認定に反する証人田中の陳述は信用することができず、ほかに右認定を左右するに足りる証拠はない。

(5) さらに、田中が右(4)のような説明をした理由について見れば、原告力本人は、右(4)のとおり、本件建物に光が入ってこないと困るという趣旨の話をすると、田中が右のような説明をしたと陳述するほか、本件建物に二回目に赴いたとき、田中及び長谷川に対し、本件建物の日照がどのようになるか確認し、本件建物を買うに当たっては、日当たりの良い部屋であることが第一の条件であると述べた旨陳述しているのに対し、被告らは、この点について、何ら合理的な反証をしていないことを考慮すれば、原告力本人が陳述するように、原告力において、田中に対し、本件建物の日照が重要であるという趣旨のことを述べたことを受けて、田中が右(4)のような説明をしたものと認めるほかはない。

(6) なお、証人田中は、平成六年六月三〇日、本件建物に赴いた原告力と応対した際には、被告初穂の従業員であった松田もその場にいた旨陳述するが、反対趣旨の原告力本人の陳述に照らし、信用することができない。一方、原告力本人は、二回目に本件建物に赴いた際、長谷川もその場にいた旨陳述するが、反対趣旨の証人田中の陳述に照らして、信用することができない。結局、前期1(五)のとおり、原告力が本件建物に赴いた際、田中の他に応対した者がいたかどうか、仮にいたとするとそれは誰であったかという点については、証拠上認定することはできない。

(7) また、原告らは、前記(4)のような田中の説明をもって、被告初穂もその趣旨の説明をしたと主張しているが、このように解すべき根拠はない。

(三)  さらに、原告らは、原告らが、平成六年七月一日、本件建物の売買契約を締結するために被告プロパティーに赴いたところ、当時、松田は、本件通知書により、大伸フードが本件隣接地上に建物を建築する計画を実行に移し始めたことを知っていたにもかかわらず、原告らに対し、右同日、本件隣接地上には、代々木チェリーマンションの区分所有者の承諾なくしては建物は建てられないので、本件建物に対する南西側からの日照は、将来にわたって確保されるとの説明をし、同席していた田中及び長谷川も、松田の右説明に対してうなづいており、もって松田の右説明を肯定していたと主張し、原告文代本人はこれに沿う陳述をする。また、原告力本人は、必ずしも明確な陳述はしていないものの、甲七四(原告力の陳述書)には、原告らの右主張に沿う記載がある。そこで、この点について検討する。

(1) まず、被告初穂が、平成六年六月二一日ころには、宅地建物取引業者として行った調査により、大伸フードが分筆前の四〇番の六の土地を買い取り、その上に建物を建築しようとしていることを知っていたことは争いはないし、本件通知書が、平成六年六月三〇日ころまでに被告初穂に対して送付されていたことは、前記2(二)のとおりであって、松田が本件通知書によって、右土地上への建物の建築が計画されていることは知っていたことは争いはなく、これらの事実に証人田中の陳述を併せて考慮すると、同年七月一日までには、松田が、大伸フードによる右建物の建築計画があることのほか、仮にそのような建物が建築されれば、代々木チェリーマンションとの関係では敷地の二重使用という問題が生じることを知ったことが認められる。

(2) また、原告文代本人および原告力本人の各陳述によれば、前記1(六)の平成六年七月一日の売買契約の際には、被告初穂からは松田が、被告プロパティーからは田中及び長谷川がそれぞれ出席していたことが認められる。

(3) そこで、前記1(六)の売買契約の際の松田の説明の内容について見ると、原告文代本人は、原告らが松田に対し、建物が建築されるなどして本件建物の日照が遮られることはないかと確認したのに対し、松田は、本件隣接地上には、代々木チェリーマンションの区分所有者の同意がなければ建物は建てられないとの説明をした旨陳述し、甲七四にも同旨の記載があるところ、前記(二)(4)及び(5)で認定した事実に照らしてみると、松田が不動産売買等を目的とする被告初穂の従業員であることを考慮しても、なお、右陳述又は記載は自然であるということができる。前記(二)(3)のとおり、本件建物等の売買契約書には、特約条項の記載があるが、同所で判示したところと同じ理由により、なお右判断を左右するものではないというべきである。一方、この松田の説明という点については、被告初穂は何ら反証をしていない。また、証人田中は、この時、分筆前の四〇番の六の土地は代々木チェリーマンションの敷地ではないので、将来は建物が建築されるかもしれないとの説明をしたと陳述するが、仮にこの陳述が、代々木チェリーマンションの区分所有権者の同意等の留保を何ら付さないで右のような説明をしたという趣旨であれば、前記(二)(4)で認定した事実に照らして信用することはできないし、むしろ、右陳述は、分筆前の四〇番の土地上に建物が建築されるかどうかという話題が出たことを認めている点において、右原告文代本人の陳述等に沿うと見ることができるというべきである。

したがって、右原告文代本人の陳述等のように、原告らが分筆前の四〇番の六の土地上に本件建物の日照を遮るような建物が建築されることはないかという趣旨の確認をしたのに対し、松田が、原告らに対し、代々木チェリーマンションの区分所有権者の同意がなければ右の土地上に建物を建築することはできないという趣旨の説明をしたことが認められる。

(4) また、その際の田中及び長谷川の態度について見ても、右(3)と同様の理由により、原告文代本人の陳述及び甲七四によれば、松田が右(3)のような説明をしている際にうなづくなどして、これを肯定していたことが認められる。

(四)  原告らは、右(二)及び右(三)の主張を前提に、田中や松田等の説明に基づき、本件建物等の売買契約においては、本件隣接地上には、代々木チェリーマンションの区分所有者の承諾なくしては建物は建てられることはなく、本件建物に対する南西側からの日照が将来にわたって確保されることが契約の要素となっていたと主張するとともに、原告らは、田中や松田等の右のような説明により、その旨信用していたところ、実際には本件隣接地には本件隣接建物が建築され、日照が阻害されたのであるから、錯誤により無効であると主張するので、この点について検討する。

(1) まず、前記(二)(4)及び(5)並びに前記(三)(3)及び(4)で認定した事実によれば、原告らが本件建物の売買に当たって日照を重要視していたことは、被告プロパティーの従業員であった田中及び長谷川のほか、被告初穂の従業員であった松田に対しても表示されていたということができ、これに対して田中のほか、松田においても、原告らに対し、代々木チェリーマンションの区分所有権者の同意がなければ右の土地上に建物を建築することはできないという趣旨の説明をしたのであるから、原告らが主張するように、本件建物及び本件敷地の売買契約においては、代々木チェリーマンションの区分所有権者の同意がなければ分筆前の四〇番の六の土地上に建物を建築することはできないこと及びその結果本件建物の将来の日照が確保されることが、契約の要素となっていたものと評価すべきである。

(2) また、原告力本人及び原告文代本人の各陳述によれば、原告らが主張するように、右(1)で契約の要素であると判示した事項が、真実であると信用していたことが認められる。

(3) もっとも、この点、被告らは、原告らにおいては、本件隣接地上に建物が建築されることを承知の上、本件建物等の売買契約を締結した旨、あるいは、原告らにおいて本件隣接地に建物が建築されることはないと思ったというのは虚偽である旨主張するので、この点について検討する(この点の主張は、前記(二)及び(三)の原告らの主張に対する主張であるとも解されるので、この点も併せて判断を示すことにする。)。

ア まず、被告らは、原告が、本件建物等の売買契約の前に、本件通知書を見せられており、本件隣接地上に建物が建築されることを知っていたと主張し、証人田中は、前記1(五)のとおり、被告力が本件建物に赴いた際に、その場にいた松田が、原告力に対し、本件通知書を示したと陳述する。しかし、証人田中の右陳述のうち、松田が右同日その場にいたことが認められないことは、前記(二)(6)のとおりであるし、原告力が本件通知書を見せられたという点についても、反対趣旨の原告力本人及び原告文代本人の各陳述に照らし、信用することはできない。ほかに、被告らの右主張を認めるに足りる証拠はない。

また、証人田中は、右同日、原告力に対し、本件建物等などの登記簿謄本、公図、売買契約書及び重要事項説明書のコピー、本件敷地を用役地とし、分筆前の四〇番の土地の一部等を承役通行権の承諾書二通(丙四の一及び二)を示して、権利関係について説明したと陳述するが、反対趣旨の原告力本人の陳述に照らし、前記(二)(2)で認定した事実に係る部分以外は、信用することができない。なお、仮に証人田中の右陳述に係る事実が認められるとしても、原告らにおいて、本件建物及び本件敷地の売買契約の以前に、分筆前の四〇番の六の土地上に、建物を建築する計画があったことを知っていたこと自体は、前記(二)(2)の事実から認められ、又は容易に推認することができる事項であって、前記(1)で認定した錯誤が原告らに存在したことを左右するものではない。

イ 次に、被告プロパティーは、田中においては、被告初穂から、本件通知書について知らされたので、渋谷区建築部建築課の堤に電話をかけて話をしており、その時の内容についても、原告らに対し、説明をするとともに、本件通知書に記載されていた同年七月五日に開催予定の渋谷区の説明会に出席するように勧め、さらに、被告初穂の担当者は、原告らに代わって、右同日開催された渋谷区の説明会に出席したが、その際、渋谷区から、本件隣接地上に建物を建築するためにされた建築確認の申請について、行政上の手続としては、建築確認をせざるを得ないことなどの説明があり、このような渋谷区からの説明について、原告らはその直後に説明を受けていると主張する。

しかしながら、まず、右の堤との電話での話の内容を原告らに伝え、説明会に出席するよう勧めたという点については、堤において、代々木チェリーマンションの区分所有者全員の承諾がなければ分筆前の四〇番の六の土地上に新たに建物を建築することはできないという発言をし、これに対し、田中が、法律的に見て、その説明に納得することができず、発言の真意を図りかねたという被告らの主張が前提となるべきところ、右前提となるべき主張が認められないことは、前記(二)(3)のとおりであり、採用することはできない。また、被告初穂の担当者が出席した説明会における渋谷区の説明を原告らに伝えたという点についても、証人田中はこれに沿う陳述をするが、反対趣旨の原告文代本人の陳述に照らして、信用することができず、他に右主張に係る事実を認めるに足りる証拠はない。

ウ 一方、被告初穂は、原告らは、前記2(四)及び(五)の建築確認申請及び建築確認の事実についても、被告初穂から知らされ、又は自ら情報を入手して知っていたと主張するが、右主張に係る事実を認めるに足りる証拠はない。

エ また、被告初穂は、分筆前の四〇番の六の土地又は本件隣接地上では、平成六年九月ころまでには、ブルドーザーが搬入され、整地工事に着工していたから、原告らは、遅くとも、前記1(八)のとおり、売買残代金等を支払った平成六年九月一九日までには、分筆前の四〇番の六の土地又は本件隣接地上に建物が建築されることを知っていたと主張するところ、なるほど、前記2(六)のとおり、分筆前の四〇番六の土地又は本件隣接地上では、平成六年九月ころまでは、地均し工事が行われていたことは認められるし、原告力本人及び原告文代本人の陳述によれば、原告らが同月一九日までに、右工事が行われていることを知っていたことは認められるものの、同じく前記1(八)のとおり、建物の基礎工事が始まったのは同年一〇月になってからであり、原告力本人及び原告文代本人は、それまでの工事について、いずれも駐車場を作るためのものであり、建物が建築されるとは考えていなかった旨陳述しているのであって、右各陳述を排斥するに足りる証拠がない以上、結局、この点の被告初穂の主張も採用することはできない。

オ さらに、被告プロパティーは、原告らが、被告らに対して、本訴と同様の主張を初めてしたのは、本件隣接地上に建物を建築する工事が始まった平成六年一〇月から相当期間が経過した平成八年七月三一日であり、その間、原告らは、被告らに対し、本件隣接建物の建築について一切抗議をしたことはなく、むしろ、被告らに対して、本件建物について瑕疵修補請求をしていたのであって、これらの事情は、原告らにおいて、その主張に係る錯誤がなかったことの証左である旨主張する。

なるほど、甲一九によれば、原告らは、被告らに対し、平成八年八月一日に本訴と同様の主張をしていることが認められるし、それ以前に何らかの抗議をしていたことを認めるに足りる証拠はない。しかしながら、原告力本人及び原告文代本人の各陳述に照らすと、原告らが全く抗議をしなかったという事実を認めるにもためらいを感じざるを得ないほか、甲六五及び甲六六によれば、原告らは、大伸フード他一名を被告として、本件隣接建物の建築によって本件建物が違法建築物となってしまったことによる価値の減少を理由として、平成七年八月二九日に、株式会社総建らとともに、損害賠償を求める訴えを提起し、平成八年五月二二日に右訴えを取り下げるまで、右訴訟を追行していたのであって、これは、結局のところ、本件隣接建物の建築に対する不服を外部に表示していたものと解することができるから、仮に、被告らに対し、平成八年八月一日までに本訴と同様の主張をしたことがなかったとしても、これをもって、直ちに、原告らにおいてその主張に係る錯誤があったことを疑わせるものではないというべきである。被告プロパティーは、原告らは右訴訟において勝訴の見込みがなくなったから本訴を提起したと主張するが、右主張に係る事実を認めるに足りる証拠はない。また、被告プロパティーは、原告らは右訴訟に訴状において、本件隣接地への建築確認が適法にされたことを明瞭に認識していたことを示すとともに、本件隣接建物が建築されることは当然であることを了解していたと主張するが、甲六五によっても、右主張を採用することはできない。

また、原告らが、被告らに対し、原告らが本件建物に入居した平成六年九月以降、数回にわたって瑕疵修補請求をしたことは争いがないが、原告力本人の陳述によれば、原告らは現在までに本件建物に居住しており、居住の必要性もあったことが認められるから、右修補請求の事実をもって、直ちに、原告らにおいてその主張に係る錯誤があったことを疑わせるものではない。

カ その他、被告プロパティーは、本件建物等の売買契約書には、特約条項として、本件隣接地は代々木チェリーマンションの敷地には入っていないが、出入口の通行権を確保していることが明記されており、代々木チェリーマンションの区分所有者に本件隣接地についてそれ以上の権利がないことが告知されていると主張するが、なるほど、甲三によれば、右主張に係る特約条項の記載はあるが、なお原告らにおいてその主張に係る錯誤があったことを疑わせるものではない。

また、右売買契約書には、前記(二)(3)のとおりの特約条項があるが、同所において判示したところと同じ理由により、なお原告らにおいてその主張に係る錯誤があったことを疑わせるものではない。

三 以上の事実及び判断を前提に、請求原因3について判断するに、前記二3(二)(4)並びに(三)(3)及び(4)の事実に、前記二2(七)の事実を併せて考慮すると、前記二3(二)(4)の田中の説明及び前記二3(3)及び(4)の松田、田中及び長谷川の説明は、いずれも結果的に虚偽であったといわざるを得ず、このような説明をしたことは、本件建物及び本件敷地について売買契約を締結しようとして原告らに対する関係で、説明義務違反に該当すると評価せざるを得ない。

また、松田の右説明は、被告初穂の従業員としてその業務の執行について行われたものであり、田中及び長谷川の右説明は、被告プロパティーの従業員として業務の執行について行われたものであることは明らかである。

したがって、被告初穂及び被告プロパティーは、各従業員の原告らに対する説明義務違反に対して、それぞれ使用者責任を負うとともに、両者は連帯債務を負うというべきである。

四 そこで、請求原因4について判断するに、原告らは、本件建物及び本件敷地の売買契約を締結した結果、前記二1(六)、(八)及び(九)までのとおり、合計で四七九六万三〇〇四円を支払ったのに対し、前記二(四)のとおり、右売買契約は原告らの錯誤により無効であるというべきであるから、原告らは、本件建物等の区分所有権及び所有権を取得していないことになるし、前記二1(七)の原告力と三和銀行渋谷東口支店との間の借入れ契約の効力についても何ら争われていないから、結局、右支払額の全額が損害となるというべきである。これに対し、被告らは、原告らに対する債権の存在等につき、何らの主張立証もしない。

また、弁論の全趣旨によれば、原告らは、本件訴訟の追行を訴訟代理人に委任し、相当額の費用の支払を約したものと認められるところ、本件の被告らの従業員による右三の説明義務違反と相当因果関係のある損害額は、合計で四八〇万円であると認めるのが相当である。

五  よって、その余の原告らの主張及び請求について判断するまでもなく、原告らの請求には理由があるから、主文のとおり判決する。

(裁判官長野勝也)

別紙第一・二物件目録<省略>

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